人間の体で一番健康状態に関連があるのは体の弾力であります。つまり体や心に弾力を持っていないと、体の自然の状態とはいえないのです。硬張って、歳をとって死ぬのも当然だけれども、生きていくという面からいうと、硬張っていくのは正常ではないのです。それで体の弾力を、或いは心の弾力というものをどのような状態でも持ち続けるということに於いて鍛錬という問題が出てくるのです。大人になって天心を保つのは鍛錬が要る。いろいろな問題があって、自然の気持ちを保てないような状態のときにでも尚保ち続けるというのはやはり鍛錬です。
『月刊全生』平成11年9月号 p.5
「大人の天心 昭和47年5月 整体指導法中等講習会」より一部を抜粋
太字引用者
上の文章は野口晴哉先生の「天心」の概念を表しています。人間が自然と一体になって生活する、あるいは自然が身体上に現れるように生活するためには然るべき鍛錬が要る、とおっしゃっています。
このような考えの背景には、野口先生が子どもの頃より愛読したとされる『易経』の影響を感じさせます。冒頭より有名な一節を以下に引用しました。こちらと合わせて整体の心について考えてみることで、より深い理解の助けになるかもしれません。ぜひ参考にしてみてください。
象に曰く、天行は健なり。君子もって自強して息(や)まず。
〔象伝〕天体の運行は健やかで息(や)むことがない。君子はこの健やかさにのっとって、みずから強(つと)めはげむ努力を怠ってはならぬ。
『易経(上)』高田真治・後藤基巳訳 岩波文庫 pp.83-84