いのちの真相とその周辺

野口整体 ユング心理学 禅仏教を中心に学んだことや日常の気づき、思い浮かべたことなどを綴っています

『人はなぜ立ったのか?』

図書館で子ども用の本を探しているときに偶然見つけました。

『人はなぜ立ったのか?』非常に面白かったです。

『身ぶりと言葉』の記事でヒトに頭脳が具わったきっかけは足の親指が前を向いたからと述べましたが、上の本はこれとはまた別の視点で人間の二足歩行の要因を考察しています。

筆者はマダガスカル島に行き現地に生息する多数のキツネザルを観察したことから彼らの主食と、口・手足の形状が深く関係していることを見つけ出します。

例えばラミーという木の実を主食にするアイアイ(表紙の写真)は固い殻に穴をあけやすい前歯と、果肉をほじくりやすい中指をしている。

では樹上生活から大地に降りた人間は何を食べたのか。筆者の仮説によればそれは「骨」だといいます。

アフリカの大地には肉食動物が食べ残した腐肉が転がっているため、かつて人間はこれを食べていたと考えられてきました。しかしそうなると同じ腐肉を狙うライオンやハイエナなどの猛獣たちと餌の取り合いになります。

これといった身体的武器を持たないヒトが獣たちと腐肉の奪い合いをしながら生存するのは得策ではりません。そこで誰も見向きもしなくなった骨を拾ってきて食べたのではないか、というのです。

そしてヒトの歯で動物の骨を食べるには、まず口に入れられる大きさまで手頃な石を使って拾った骨を割らねばならず、そのために手の親指が太く大きく発達したと考えられます。

さらに骨と石を両手で持ち帰って子どもたちに食べさせようとすれば、自ずと足の指を有効に使って歩いたり走ったりしなければなりません。

そのため長距離二足歩行に適した足裏の形状になった、という論法です。

これには「なるほど」と思いました。

さらに口の中で固い骨を転がし、すり潰して食べるために臼歯が発達し犬歯は退化します。すると顔面の平板化が進み、融通性を獲得した頭蓋骨の前部に脳を流し込むという『身ぶりと言葉』に出てきた理論ともかみ合います。

因みに脳の大半は脂肪でできており、ヒトが食べたとされる動物の骨には20%も脂肪が含まれていて、これは豚肉よりも割合的に多いそうです。つまり人間の大脳は骨食から得た脂肪によってできたのでは?と筆者の仮説はさらに進みます。

ところで日本では近年の生活様式の変化から足腰の弱い子が増えて問題になっています。

外反母趾も足の母指先に体重が乗らないことを意味します。足の親指に体重が乗らなくなる、というのはある意味では人類の退行現象と言えるかもしれません。

ことの善悪までは論じられませんが、足の弱体化は何か人間という種の存続に関わる問題であるように私には感じられるのです。

そんなことからうちの子どもには「頭を1時間使ったら2時間は体を動かしなさい」といっていますが、学校で拘束されている時間を考えるとそうも言っておれず悩ましい限りです。

人間といえど生物進化にまで影響を及ぼす力はありません。できることはこれまでの歴史を辿ることと、そこから先を予測をすることくらいで、いずれも傍観者の域をでません。

ただ一つ決められるとすれば、自分がいかに生き死ぬかを決断することでしょうか。その「いかに…」ということを意識ではなく無意識に聞きなさい、迷ったら自然に還りなさい、と説き続けた野口晴哉先生の先見性と普遍性にはやはり感服するばかりです。